最近お客さんに怒られることが多くなってきたような気がします。お客さんの言い分もわかるのですが、どうしようもできない事って多い。
今回はそんなやりとりを2つほど、ケース別に紹介してみます。
ブレーキが引きずった?不良品じゃないのか!?
まずトップバッターでの紹介です。
仮称でAさんとします。Aさんが乗っている車、平成20年式の軽自動車です。営業時間前に来て
「最近燃費が悪いんだ!おかしいからすぐに点検して!」
と言われました。燃費が悪い・・・?このAさんは毎回ガソリンを入れるたびに細かく燃費計測をしている人です。一体どの程度燃費が悪いのかは不明ながら、とりあえず車を移動して工場へ。
すると、なんだか車が重たい・・。もしや・・。
2柱リフトに入れて車両をリフトアップします。車をリフトに上げてタイヤを浮かした状態でタイヤを手で回してみる。
フロントタイヤを回してみると・・・・・回らない・・・。これは明らかにブレーキを引きずっている。これでは燃費が悪いというのも納得できます。
つねにブレーキが若干きいてる状態で、走ってるわけですから。
ただ車両火災になるか?というそこまで重篤に引きずってはいません。反対のタイヤは手でくるくる回りますが、引きずってるタイヤは力を加えると回ることは回る。
軽微な引きずりです。
ディスクブレーキが引きずる原因のほとんどが、ピストンの固着や錆です。ブレーキキャリパーのダストブーツが切れて内部に水が浸入して錆びてしまっている。
もしくはずーっと動かさなかった車のブレーキが固まってる。Aさんの場合、通勤で毎日使ってるので、原因は前者になると思われます。
この日も出勤前に見て欲しいと来たので、時間が取れなかった為キャリパーを取り外してまでは点検しませんでした。
Aさんの車は現在ブレーキが引きずってるということ。それに対する概算の見積書を作ってお渡ししました。内容はあくまでも分解していないので概算です。
ブレーキキャリパーのOH・シールキット交換。おそらくピストンも錆び付いて使い物にならないので、ピストンの交換。あとはブレーキフルード交換といった内容です。
ブレーキパッドの残量はそこそこあったので、できれば交換をおすすめというくらいに含めておきました。
見積書を見せるとAさん、納得出来ていない模様です。
「こんなブレーキが壊れるなんて信じられない!メーカーにクレームを入れて欲しい。メーカーの責任でしょ?どうなってるんだ!」
と一点張りです。
自動車には保証期間というものがあり、Aさんの車は保証期間が過ぎているということ。さらには、故障した原因が使用過程の外的要因の可能性が高いため、保証はほとんど難しいと話をしました。
それでも納得がいかないということなので、メーカーには相談を入れてみます。その後ご報告をします。と言ってとりあえず帰っていきました。
後日事の経緯を最寄りのディーラーに相談すると言うまでもなく
「保証はかなり難しいですね・・・」
とディーラーのフロントマンは困惑気味です。僕もこんな相談しても無理だということは百も承知です。お客さんの気持ちというものをとりあえずつないでおかないと、約束したことが嘘になるので報告をしておきました。
ディーラーとのやりとりをAさんに伝えると、Aさんはとりあえず修理はしない!見送る!といっていました。
ブレーキが固着すると、症状がひどくなると車両火災になる恐れがあるということ。エンジンが途中で停止するよりも危険であるということだけは重々説明しておきました。
鍵が回らない!こんなバカな話があるか!
続いてのケースです。電話がかかってきました。
「車のエンジンがかからない!すぐに来てくれ!」
これだけのやりとりでは、どのような装備をしていけばいいかわからないので、電話で問診をしました。
エンジンがかからないが、セルモーターは回るのか?と聞くと
「回らない」
とBさん(仮称)
鍵を回してもセルが回らない。なのでエンジンがかからないということ。Bさんの車両データを見ると気になるところがありました。
この車、9割くらいはMTの商用車です。だけどなんとなく覚えていた。Bさんの車はATであると。もしかしてDレンジに入ってるんじゃないのかな?
Bさんに電話をして、シフトがDに入ってないかを聞きました。そうしたら案の定Dレンジに入ってるという。ではPレンジかNレンジに戻して鍵を回してくださいと伝えると
「鍵が回らない」
という。
この時点でなんとなく原因が掴めてきたので、それなりの装備を整えて出張に出発。車両を確認すると、確かに鍵が回らない。今までは普通に使えていたというわけですが、どうやらシフトロックがおかしくなっているか、シリンダーがおかしくなってるかのどちらか。
現場でコラムカバーとシフトカバー回りを分解してみると、すごい砂やら泥が出てきました。
こりゃダメだ。原因はシフトリンケージに泥や砂が堆積して、ワイヤーの部分が少し曲がっていました。
このため、Pレンジまで戻そうとしてもその手前くらいまでしかシフトが移動しない。ワイヤーをはずしてまがりをプライヤーで修正して組み付けるとなんとか動くようになった。
そしてキーも回るようになった。
どうしてこんなことになったんだ!とお怒りのBさん。分解したシフト周りを見せて、砂や泥が原因でシフトリンケージが正常な動作ができなかった。
そのため、キーシリンダーが微妙にハーフの状態になってしまってエンジンがかからない。根本的な原因はシフト周りのゴミや泥ですとやんわり説明。あくまでやんわりです。
するとBさん
「こんなの構造がおかしいじゃないか!メーカーにクレームだ!お金はメーカーからもらってくれ。びた一文納得できるまで払わない!」
との一点張り。
一応難しいけど、これはこのメーカーに限った事ではなくて、どのメーカーの同型車種で起こり得ること。気をつけるとしたら、砂や泥が体積する前にちゃんと掃除をしないと難しいと思うとあくまでやんわり告げましたが、まったく納得してもらえない。
とりあえず出張代金は上司に報告して保留としました。あのあとBさんにアフターフォローの電話をしたら
「メーカーのお客様相談室に文句を言ってやった!修理代はメーカーからもらってくれ!」
車は完全な乗り物ではありません
ぼくはこういった現場のクレーム処理を業務の一環として引き受けているので、あくまでもニュートラルな立場でお客さんと対話することを心がけています。
まず第一に優先するべきことは、お客さんの立場に立って物事を考えるということ。この手のクレームを毎日のように処理してきて、同僚からは
「いいかげん理不尽すぎてムカつかないか?」
と心配されることもあります。僕もクレーム処理を最初やり始めた頃は
「どうしてこんなに無茶苦茶なことをいうのだろう?」
と若干人間の本質というものに疑問を持つことが多々ありました。でも場数を踏んでいくと少しずつ見えてきたこと。
クレームを言ってくる人は、そもそも車の故障について分かっていないことが多いということ。
今の時代車って本当に故障が少なくなりました。でもたまに故障に遭遇すると、こんな不良品といったイメージがその人に定着してしまいます。
それほど国産車の品質が上がってきたということ。昔ならよく止まっちゃうので
「またとまっちまったよ・・・」
と、故障に対してもお客さんは寛容でした。
だけど今はダメです。それほど国産車に求めるハードルが上がってきています。そんな中たまたまこういった故障に遭遇すると
「どうして自分が・・・」
こういう気持ちになるのがよくわかる。ぼくは毎日のように車の故障と向き合ってるので、いくら新車を買ったとしても壊れても別に驚きません。これ本当。
故障に慣れてない人が故障に遭遇するときに心細さや不安さ。これを整備士は忘れてはいけない。これがお客さんの立場。ユーザー目線で考えること。
そして次はお客さんに納得してもらうための説明ですね。どんな電化製品だって壊れますよね。この前、うちの洗濯機が壊れました。8年くらい使ったけど、最後は脱水ができなくなってしまった。
整備士なので分解して直そうと思ったけど、中空になってる層がおかしくて、脱水の遠心力のバランスが崩れて洗濯機の壁にぶつかりまくってたんです。
どうしてこうなったかというと、いつも容量オーバーで回し続けてきた結果だなと。バラしてみると理由がわかる。洗濯槽の外側めちゃくちゃ傷だらけです。おそらくここは傷があってはいけない箇所のはず。
しょうがないから買い替え。電子レンジも壊れました。温められなくなった。これも分解して直そうと思ったけど、配線とかその辺は問題なさそうだったけどあとはわからなかったのでしょうがないので買い替えました。
電化製品に限らず商品には保証期間というものが存在します。その期間内で壊れたら無償で修理してくれる。使ってる側に過失がなければです。
車もそうです。一般保証と特別保証。これを過ぎると基本的に相当なケースがない限り修理代はかかります。
使っていく中で、部品は劣化する。それらをひっくるめてずーっと保証しろなんて無理ですから。ここをお客さんにいかに納得してもらうかですね。
我が家の兄も新車で買った車、保証が切れた途端にエアコンが壊れました。続いてパワーウインドウも壊れました。もうメーカーに不信感全開です。
でもしょうがないのです。車って完全なものではないから。まあ兄の場合は保証期間が過ぎてすぐだし、彼に過失があるわけではないので同情しますけど。
こちらとしてもお客さんには気分良くのっていてもらいたい。でも、決められたルールをこえたらやっぱりお金が発生する。どうしようもないことってありますからね。
車は完全ではありません。どんなに性能が良くなったって故障するときはしちゃうのです。というお話でした。