なかなか笑えない出来事が起こりました。ことの発端は営業からの電話。
「お客さんがバッテリー上がっちゃって、エンジンをかけたいんだけどドアがあかなくてどうしよう?」
言っている意味がこれだけだとちょっと理解できなかったので、同僚なんですけど一つずつ問診しました。
まずわかったことはバッテリーが上がってるということ。そしてドアが開かないということです。
車は何か?と聞いたら某S社の車だと言う。そばにお客さんがいるみたいで、若干パニック気味の営業マン。
ドアが開けられないということは、スマートキー搭載車なのかなと聞いたらそうだといいました。
どうやらスマートキーで開錠ができないほどの完全なバッテリー上がりになっている模様です。それではと、スマートキーについている小さなメカニカルキーを使って、運転席の鍵穴から鍵をあけて入ればいいんじゃない?とアドバイス。
それも試したといいます。それでも開かないという同僚。
この時点で僕も???。
今の車って、気づいてる人は気づいていると思いますがドアに鍵穴って1つしかない。運転席のみシリンダーがついています。
あとはついてません。年式でまれにバックドアにキーシリンダーが付いてる車もありますが、ほとんどが運転席ドアにだけ鍵穴があるだけになっています。
スマートキーは近づいたりリクエストスイッチを押すと、キーを携帯しているだけでドアロックを開閉してくれます。
しかしこの車の場合、バッテリーが完全に上がってるということなので、電気で動くドアロックが作動しない。つまりスマートキーでドアロックを開けることができません。
そんなエマージェンシーな状況の時、手動でロックを解除するために、運転席にのみ鍵穴がついてます。
ほとんどのメーカーがスマートキーに小さなメカニカルキーを備えている。この物理的な鍵を運転席ドアの鍵穴にさして、キーを回すことでアナログ的にドアロックを開けることができます。
そのあとはエンジンフードをあけてバッテリーを交換するなりすれば、スマートキーの機能が復活するというわけですね。
しかし同僚はこのメカニカルキーを運転席の鍵穴に差し込んでも鍵があかないという。
にわかには信じ難いけど、実際にお客さんが目の前にいてそれができないということは何かが起きている可能性があります。
考えられるのが運転席キーシリンダーのロッドやワイヤーが何かしらの原因で外れてしまっているという点。これだといくら鍵を回してもそこからロッドなどのリンケージを介してドアロックを解除する。ロッドやワイヤーが途中で外れてれば鍵穴を回してもスカスカするだけになってしまいます。
同僚に手応えはどうなのかと聞くと
「おかしい」
とだけの返答。同僚とて整備士の資格を持ってるし、自分よりも長い期間営業マンとして活躍してきている。そんな馬鹿な・・・。
運転席キーシリンダーでロックが解除できなければお手上げです。鍵屋さんを読んでも普通のピッキングなどでは開けられません。
だってキーシリンダーのリンケージが外れてる可能性が高いから。こういう最悪のケースの時、どうやって鍵を開けるか?
これはもう超特殊工具を使ってドアの隙間からインナーハンドルでドアロックを開けるしかない。外から開けることができないのなら、中から開けるしかない。
中から開けるにはそれなりの道具を使って外から中へ道具を入れて開ける。こういうことになります。
最新の注意を払っても、ボディに若干のダメージがつく場合も想定できます。とりあえずこりゃダメだろうと思って道具一式をもって現場へ行ってみました。
そうしたら、とても意外な結末が・・・。
営業マンの言うとおりバッテリーは完全に上がっている。外から開けられるであろうキーシリンダーはやっぱり運転席ドアのみにしかない。
それでもと、僕もメカニカルキーで運転席キーシリンダーを操作してみると
「・・」
確かに手応えがおかしい・・・。でも待てよ、これってもしかして・・・。
ガチャッ
営業マンの目が点になりました。
僕の目も点になりました。
とりあえず鍵は開きました。どうして開いたかというと、運転席のキーシリンダー、ものすごく渋くなっていた。もう手応えが半端じゃないほど固い。開錠の方向へ回そうものなら、もう回らないだろうっていうほどの力を入れないと動かなかった。
同僚は気が動転してキーを回す方向に疑問を持たなかったようです。
考えてみれば運転席のキーシリンダーなんか、今回のようなことがない限り新車から一度も回されていないことがほとんどです。
それに加えて年数も経ってるとそりゃ動かされなければ渋くなるわけです。その渋さが半端じゃないほど固かったから、この方向には回らないと本能的に察知してしまったみたいです。
なんと人騒がせな・・・。まあこういうこともあるんだなと僕も勉強になりました。それにしても笑えない失敗ですね。