車の進化というのは、本当にすごいものがあります。
昔の車と今の車を比べると、燃費、安全性能、快適装備など、あらゆる部分が進化しました。

衝突被害軽減ブレーキが付いていたり、前の車との距離を保ちながら走ってくれたり、駐車するときには車の周囲をカメラで映してくれたり。
昔では考えられなかった装備が、今では軽自動車にも搭載されています。
しかし整備する側から最近の車を見ていると、進化したからこそ困ることもあります。
それが、
「故障したときに思った以上に修理代が高くなる」
という問題です。
昔だったら数千円程度の部品交換で済んだような症状でも、最近の車では数万円、場合によってはそれ以上になることがあります。
なぜこんなことが起きるのでしょうか?
部品が壊れたのに「そこだけ交換」ができない
最近の車の修理代が高くなりやすい理由の一つが、部品の一体化です。

整備の世界では「ASSY」という言葉をよく使います。
アッセンブリー、つまり複数の部品が組み合わされた状態です。
例えば10個の部品で構成されているユニットがあったとします。
実際に壊れているのは、その中の1個だけ。
整備士としては、
「この1個だけ交換すれば直るのに」
と思います。
ところが部品を調べてみると、その1個だけでは供給されていない。
10個が組み合わされたASSYでしか部品を購入できない。
そうなれば、故障していない部分まで含めて丸ごと交換することになります。
当然、部品代は高くなります。
これが最近の車では珍しくなくなってきました。
ヘッドライトが切れたら電球交換、とは限らない
昔の車を知っている人なら、ヘッドライトが点灯しなくなったと聞けば、

「球が切れたんじゃない?」
と考えるでしょう。
ハロゲンランプなら、バルブを取り外して新品へ交換するのが一般的でした。
電球は消耗品。
切れたら交換する。
非常にわかりやすい構造です。
しかし最近はLEDヘッドライトが急速に普及しています。


LEDは明るく、省電力で寿命も長い。
非常に優れたものです。
ただし、故障したときの修理方法は昔とは違います。
車種や故障内容によっては発光部分だけを交換できず、ヘッドライトユニットごとの交換になることがあります。
ユーザーからすると同じ、
「ライトが点かなくなった」
という故障です。
それなのに修理内容は昔とまったく違う。
見積もりを見て、
「電球交換じゃないの?」
と驚いてしまうのも無理はありません。
パーキングブレーキまでコンピューターの管理下に
昔のパーキングブレーキといえば、レバーを引くタイプが定番でした。

ギギギギッ!
と引き上げるあのタイプです。
構造も比較的シンプルで、ワイヤーなどを介してブレーキを作動させます。
ところが最近は電動パーキングブレーキが増えました。
小さなスイッチを操作するだけでブレーキが作動します。
さらにオートホールドまで付いている車なら、信号待ちでブレーキペダルから足を離すこともできます。
便利さでは圧倒的に今の車です。
しかし、電動化すれば当然部品も増えます。
モーター。
スイッチ。
センサー。
配線。
制御ユニット。
そして整備する側も、それに対応しなければいけません。
車種によってはリヤブレーキのパッドを交換するときでさえ、診断機を使って電動パーキングブレーキを整備用の状態にする必要があります。
昔なら工具を使って作業していたところへ、電子制御の知識が必要になってきたわけです。
フロントガラスを交換しただけなのに作業が終わらない
フロントガラスも昔とは事情が変わりました。

最近の車のフロントガラス上部をよく見てください。
カメラのようなものが付いている車が増えています。
これは衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報など、安全装備に使われる重要な部分です。
昔なら飛び石などでフロントガラスが割れたら、新しいガラスへ交換して作業終了という流れでした。
ところがカメラなどが装着された車では、ガラス交換後に調整や確認作業が必要になる場合があります。

いわゆるエーミングです。
なぜそんなことをするのか?
理由は単純です。
安全装置だからです。
カメラが正しく道路や車両を認識できなければ困ります。
人の命にも関係する部分なので、
「だいたいこの辺を向いているから大丈夫でしょう」
では済みません。
必要な作業をきちんと行う。
その結果、昔よりも修理工程が増えることになります。
ちょっとバンパーをぶつけただけでも油断できない
昔のバンパー修理なら、傷や変形を直して塗装するというイメージが強かったと思います。

もちろん今でも基本的な板金塗装は同じです。
しかし問題は、バンパーの周辺に何が付いているかです。
最近の車には、
コーナーセンサー。
カメラ。
レーダー。
さまざまな装置があります。
つまり、外から見ればただのバンパーでも、実際には安全システムの一部になっている場合があるのです。
事故でバンパー周辺を損傷した場合、外装だけをきれいに直せば終了とは限りません。
周辺のセンサーなどに問題がないか確認する必要も出てきます。
昔と同じような事故でも、修理内容が変わってきているわけです。
整備士の仕事も「交換すれば終わり」ではなくなった
車が複雑になれば、整備士の仕事も当然複雑になります。

昔から整備士には経験が重要でした。
音を聞く。
振動を感じる。
部品を見る。
測定する。
こうした基本は今でも変わりません。
しかし現在は、そこへ電子制御の診断が加わっています。
警告灯が点灯したら診断機を接続する。
故障コードを読み取る。
データモニターを確認する。
必要なら電気的な測定を行う。
そして、
「なぜこの故障コードが入ったのか?」
まで考えなければいけません。
故障コードが出た部品を片っ端から交換すればいいわけではありません。
センサー自体は正常で、その先に本当の原因が隠れていることだってあります。
車の進化に合わせて、修理する側にもより多くの知識が必要になっています。
高い修理代は「便利になった代償」でもある
では、修理が簡単だった昔の車の方が優れていたのでしょうか?

僕はそうは思いません。
今の車には、昔にはなかった安全装備がたくさんあります。
前方の車を検知してブレーキをサポートしてくれる。
車線から外れそうになれば警告してくれる。
アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故を防ぐための機能もあります。
燃費も良くなりました。
排出ガスもクリーンになりました。
夜になれば自動でライトを点灯してくれる。
高速道路では前の車に合わせて速度を調整してくれる車まであります。
これらはすべて、車に多くのセンサーやコンピューター、モーターなどを搭載したことで実現しています。
つまり、
「昔より壊れたときに高くなった」
という部分だけを見るのではなく、
「昔よりはるかに多くの仕事を車がしている」
ということも考える必要があります。
これから車を買うなら「修理代」も少し考えたい
新しい車を選ぶとき、多くの人が気にするのは車両価格や燃費でしょう。
しかしこれからは、もう一つ気にしておきたいことがあります。
それが修理費です。
LEDヘッドライトは壊れたらどういう交換になるのか。
先進安全装備はどの程度搭載されているのか。
事故を起こしたとき、どんな調整作業が必要になるのか。
もちろん、故障することを前提に車を選ぶ必要はありません。
ただ、
「装備が多ければ多いほど、壊れたときに関係する部品も増える」
ということは知っておいて損はありません。
昔の車はシンプルでした。
今の車は複雑です。
その代わり、昔の車にはできなかったことをたくさんやってくれます。
便利さ、安全性、快適性。
その裏側には、多数の電子部品やセンサーがあります。
整備士として最近の車を触っていると、
「すごい時代になったな」
と思う反面、
「これが壊れたら高いだろうな……」
と思うことも増えました。
車の進化と修理代。
この二つは、これからますます切り離せない関係になっていくのかもしれません。
DIYでなにかをするときも簡易診断機が必需品になってきましたね。